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20歳と数ヶ月で亡くなった天才数学者の生涯~「ガロアの時代 ガロアの数学 <第一部>時代編」レビュー

ちまちまと読んでいて、やっと読み終わりました…

 彌永昌吉先生の書いたガロアの時代 ガロアの数学 <第一部>時代編」

 

まず、一言…

 

面白かったーーーー!!

 

というわけで、何が面白かったか?を、少しずつ書いてみようと思います☆

 

 

1.著者の彌永昌吉先生

まず、内容の話の前に、著者である彌永昌吉先生のことを、お話しておこうと思うのです。

 

 彌永昌吉先生は、数学者です。

彌永昌吉 - Wikipedia

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Wikipediaより)

 

1906年生まれで、2006年に亡くなった彌永先生。

そうです。100才まで生きました。

 

 

この方が「スゴイ人」というのは(100才まで生きたこと以外にも)、数学ファンでなくても、経歴をさらっと見れば、わかると思います。

 

・一高から、東大理学部数学科へ

・戦時中に、ドイツとフランスへ留学

・1942年~1967年まで、東大理学部教授

・数学のノーベル賞と呼ばれるフィールズ賞の選考委員を務める

などなど。

 

うん、すごい。やばい。

 

そして、個人的に「これはスゴイ」と一番思うのは、お弟子さんの優秀さです。

 

●お弟子さん① 小平邦彦先生

フィールズ賞の受賞者です。日本での受賞者は3人だけ。そのうちの一人。

 

●お弟子さん② 岩澤健吉先生

岩澤理論の岩澤健吉先生。

フェルマーの最終定理の証明に使われている理論です。めちゃきれいな理論。

 

●お弟子さん③ 佐藤幹夫先生

ウルフ賞の受賞者です。代数解析学を生み出した方。

 

「東大にいたから、お弟子さんは優秀で当然」というのもあると思いますが、

彌永先生は、数学・算数の教科書作成にも携わっていたようなので、「人を育てること」が、お好きな方だったのかもしれません。

 

90才を越えても、論文や本の執筆、セミナーの開催を続けていたそうです。

 

事実、この本も1999年に出版されたもの。

彌永先生、93才のときです。

 

ただならぬバイタリティに驚かされます。

 

2.数学者らしい本

この本を読むときは、ぜひ、

「90才を越えた数学者が書いた本」だということを味わいながら読んでみてほしいなあって思います。

 

言葉遣いや文章運びが、本当に、数学者らしいんです。

 

平易とは言い難い文章なんですが、

誤解ができるだけないように、エビデンスを明確に示しながら書かれています。

 

この辺りが、「普遍的正しさ」と向き合ってきた数学者らしい姿勢だなあ、と感じるのです。

 

この本は、「ガロアという、19世紀を生きた天才数学者の一生」について書かれているのですが、

「彌永先生、あなた本当に数学者なの?」というくらい、歴史に関する、ありとあらゆる文献を紐解いた上で、この本を書いています。

 

「専門外です」なんて言わない、調査能力。

 

歴史に、数学に、そして何より学問に、首を垂れて、

できるだけ正確に、確実に伝えていこうという姿勢。

 

読んでいて、心地よく気が引き締まりました。

 

3.ガロアって、誰? 

数学ファンならば、誰しもが知っているアイドル数学者ガロア

 

エヴァリスト・ガロア - Wikipedia

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wikipediaより)

 

「何で、そんなにも有名なのか?」というと、

一つ目の理由は、圧倒的に素晴らしい数学の業績

二つ目の理由は、恐ろしいほど波乱に満ちた生涯

です。

 

 

まず、何より有名なのは「20才という若さで決闘で死んだこと」

そして、ガロア理論という整数論に欠かせない理論を創始したこと」

 

10代後半で数学に目覚め、20才までに、ガロア理論を創始してしまった…

ありえないのです。恐ろしい天才なのです。

 

4.時は、19世紀フランス

ガロアの生きた時代は、19世紀初頭のフランス。

ナポレオン帝政から、7月革命までの時代を生きました。

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まさに、「保守か?革命か?」で政治がグラグラ揺れていた時代です。

そんな不安定な時代に、思いっきり翻弄されてしまうガロア

 

彼の原体験の一つに、「政治背景を原因とした父親の自殺」が、あります。

彼は、若くして、愛国主義の革命家になるのです。

 

晩年は、事件を起こし、政治犯として、逮捕されるまでに至ります。

 

5.数学の才能を認められなかった

若くして亡くなったことも悲劇的ですが、さらに、悲劇的なのは、

死後に、数学的業績が評価された点

です。

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この本を読んでいて、感じたのですが、

ガロアが「後世に名をはせる天才数学者」だと、誰からも思われていなかったからか、彼に関する記録や文献は、曖昧であり、多くないのです。

 

「人並み以上に、数学ができる青年」という範疇を越えず、

論文を何度提出しても、不運が重なって、認められず、

エコール・ポリテクニークという名門学校の受験にも2度失敗し、

政治思想ゆえに、入学した師範学校も退学させられてしまうのです。

 

6.決闘へ

「決闘は、なぜ起こったか?」というのは、実は、残っている記録が少なく、謎が多い部分です。

しかし、「恋愛問題・女性問題」が原因であったことは、遺書などから、ほぼ確実であると言われています。

 

ガロアが恋した女性」については、ぜひ、本を読んで解き明かしてみてください。

 

7.激動の10代

私の感想ですが、

10代~20代前半は、誰もがアイデンティティの危機を迎えます。

 

自己と他者の間で、葛藤を感じて、せめぎあう時期です。

誰だってそうです。

「思春期」や「青年期」と呼ばれる、大切な、そして厄介な時期。

 

そんな時期に、これだけの体験をしてしまった彼は、まさに激動の人生を歩んだ、と言っても過言ではないと思います。

 

父親のこと、政治のこと、恋愛のこと、

それだけでも、頭がパンクしそうなほど大変だと思うのですが、

さらに、彼には数学がありました。

 

8.5次以上の方程式は代数的に解けない

ガロア理論を用いた有名な結果の一つに、

「5次以上の方程式は代数的に解けない」

というものがあります。

 

ノルウェーのアーベルという数学者(この人も不思議なことに、正当な評価を与えられないまま、26才で亡くなっています)が、ガロアより前に証明してしまった結果ではありますが、この証明は、ガロア理論を使うことで、アーベルよりも簡略な証明が可能となりました。

 

「5次交代群」というものを考えながら、証明していくのですが、

ここでは、詳しい証明内容には触れず、「この結果のすごさ」に、少しだけ言及していこうと思います。

 

この結果、数学ファンならば誰しもが知っている結果であり、多くの数学初学者が「理解してみたい!」と憧れる結果です。

 

ピアノを習い始めた人が、「いつか、あの曲を弾けるようになってみたいなあ」と夢に見る曲、のようなものなのです。

 

少し、数学的な話をすると…

「5次以上の方程式は代数的に解けない」

 というのは、簡単に言うと、

「5次以上の方程式の解の公式はつくれない」

ということです。

 

「2次方程式 の解の公式」って、ありましたよね?

「2aぶんの~マイナスb~プラスマイナスb2乗マイナス4ac」って覚えたアレです。

 

ああいった公式が、5次以上の方程式になると、絶対につくれないのです。

 

つまり、

aX^5+bX^4+cX^3+dX^2+eX+f=0

aX^6+bX^5+cX^4+dX^3+eX^2+fX+g=0

のような方程式を満たすようなXを求める「解の公式」は、絶対に存在しえない、ということです。 

 

なぜ、この「5次以上の方程式は代数的に解けない」という結果に、数学ファンは憧れ、そして、熱狂するのでしょうか。

 

9.「無限」を相手に、「ないこと」を証明する

魅力の一つとして、

「5次以上の全ての方程式」

を相手にしていることが、大きな魅力だと思っています。

 

5以上なら、何だって良いわけですからわけですから、

5でも6でも7でも、

もっと言えば、1億でも2兆でも、

10000000000000000000000000000000000000000000000

とかでも良いわけです。

 

相手にしているのは、「無限」です。

そして、「5次以上の方程式の解の公式はない」ことを示しているわけですから、つまり、「ないことの証明」を、やってのけているのです。

 

数学の場合、

「2兆まで、実験して、なかったから、さすがにない」

と言うことは言えません。

 

それは、確かに、実験結果として有効ではあります。

しかし、2兆より先に、「ある」かもしれないですよね。

 

それは、2兆でも、300兆でも、5000京でも、そうです。

その先に、「ある」かもしれない。

 

「ここまでやって、ないから、ない」と言えないのが数学の大きな特徴なのです。

絶対に「ない」と言い切らないといけない。

 

相手にするのは「無限」。

具体的な「大きな数」なんて、そんなもんではありません。

 

そんな恐ろしい「無限」を相手にして、「ないことの証明」という恐ろしい証明をする。

そのためには、キラリと光る、美しいアイデアが必要となります。

 

それが、きっと、ガロア理論だったのです。

 

10.キラリと光る、美しい理論

方程式から得られる拡大体と、その根が織りなす写像とを、見事に繋げ、その関係性を「ガロア理論の基本定理」で、シンプルに、言い表しています。

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そんな、キラリと光る、美しいガロア理論

 

最近、私は勉強していないので、結構忘れてしまっていることも多いのですが(だから間違ったことも書いているかもしれない…)、

ガロア理論を、初めて習ったのは、大学3年のときでした。

 

当時の私には、「感動!」というより「難しいなあ」という気持ちが、強かったのですが、

しかし、明らかに「思考の視野が開けた」というか、「今までより”一段上”から考えられるようになった」という感覚がありました。

 

「方程式という、古代バビロニアからの研究対象へ、スパーーーーンと彗星のごとく出現し、新しい視点を与えてしまった!!」という印象があります。

 

そして、ガロア理論の先に、類体論とか、岩澤理論とかがあって、フェルマーの最終定理の証明へと繋がっていくのです。

 

そんな現代数学の礎を、ガロアが数年で築き上げてしまったのは、恐ろしいことです。

 

11.数学的に、最高に面白い時代

ガロア自身が天才であったのは言うまでもありませんが、

それでも、ガロアの生きた時代は、数学的に、最高に面白い時代であったと思います。

 

代数学から、現代数学へ。

直感と経験が、厳密で抽象的な論理の世界へ、一段一段、クッキリと階段を上っていく。

 

デカルトフェルマーパスカルニュートンライプニッツ

そして、オイラー、リーマン、ラグランジュ

彼らのバトンを受けて、ガロアの時代へ。

 

ルネサンスを経て、ヨーロッパの数学が大きく花開いていった時代からのバトンを、ガロアは受け取りました。

 

高校数学のゴールは、概ね、ニュートンライプニッツ微積分なので、

ガロアの数学は、そこから100年後の数学なのです。

 

12.まとめ

最後に、おススメポイントをまとめると…

 

●90代の世界的な数学者が書いた本。味わえます。

●激動の人生を歩んだ不遇の天才ガロアの生涯が描かれています。

●ナポレオン帝政~7月革命。世界史的にも面白い時代背景です。

●さらには、数学史的にも、興味深い時代です。

 

数学的な部分は、大学レベルの知識も必要なので、少々難解ですが、飛ばし読みしても十分楽しめると思います。

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良かったら、ぜひ、読んでみてください☆

 

【参考記事】

nekomath271828.hatenablog.com

 

【おすすめ関連文献】

ガロア理論講義 (日評数学選書)

ガロア理論講義 (日評数学選書)